ʻIliahi (Santalum spp.)
ビャクダン属は25種からなり、インド、東南アジア、オーストラリア原産のものが多い。香木として利用されるビャクダン(Santalum album)が有名。それ以外ではハワイ諸島に4種、マルキーズ諸島に1種ある。ファン・フェルナンデス諸島にも1種あったが、過剰伐採が原因で絶滅している。ハワイ諸島の4種はすべて固有種で、総称してイリアヒ(ʻiliahi)と呼ばれる。総じて個体数は少ない。
スポンサーリンク
日本語名 | — |
---|---|
ハワイ語名 | ʻiliahi、ʻaoa |
英語名 | sandalwood |
学名 |
Santalum ellipticum Santalum freycinetianum Santalum haleakalae Santalum paniculatum |
分類 | ビャクダン科(Santalaceae)ビャクダン属(Santalum) |
その他 | ハワイ固有種(endemic) |
分布
E
ハワイ固有種。Santalum ellipticumは、主要6島に分布し、低地の乾燥した場所に生育する。カウアイ島とハワイ島では特に数が少ない。Santalum freycinetianumは、ハワイ島以外に分布し、湿った森で見られる。Santalum haleakalaeは、ハレアカラー(Haleakalā、マウイ島)のみに分布し、山の裾野(標高1,900~2,700m)の乾燥した場所に生育する。Santalum paniculatumは、ハワイ島のみに分布し、標高450~2,000mの森で見られる。
特徴
樹高1~12mの常緑の木本。幹の中心部は、ビャクダン特有の木香がある。葉は楕円形、卵型、または倒卵型で対生。花は直径約6mm、白色または赤色で、花弁は4枚。果実はオリーブに似ていて、長さ約2cm。半寄生(hemiparasitic)の性質をもち、細根からプーキアヴェやコアなどの水分や養分を奪って吸収する。
Santalum ellipticum
【写真1】樹高1~5mの小高木。この種だけはイリアヒアロエ(ʻiliahialoʻe)というハワイ語の別名がある。葉は灰色を帯びた緑色で、長さ2.5~6.1cm、幅1.7~4cm。花は甘い芳香があり、蕾や花冠は緑色で、花が開くと茶色、オレンジ色、またはサーモン色などの色彩を帯びる。英語でcostal sandalwood(海岸のビャクダン)とも呼ばれる。
Santalum freycinetianum
樹高1~12mの低木または高木。葉は長さ4~9cm、幅1.8~4cm。葉の縁は緩やかな波状で、主脈を中心に折り曲がっていることが多い。葉は枝にぶら下がるように生えることが多いが、若い葉は直立して赤みを帯びることが多い。花の芳香は少ない。
Santalum haleakalae
【写真2】樹高2~4mの小高木。葉は薄緑色で紫色を帯びていることもある。葉の長さは2.5~7.5cm、幅は2~6cm。花の芳香は少ない。
Santalum paniculatum
樹高3~10mの低木または高木。葉は長さ4~9cm、幅1.8~4cm。葉の色は多様で、黄色っぽいオレンジや青みを帯びているものや薄緑色のものなどがある。若い葉は紫色。花は甘い芳香がある。
スポンサーリンク
利用
古代ハワイ人は、イリアヒの材を粉にしたものをカパ布にまぶして香り付けをしたり、ココナッツオイルとまぜて布を防水加工したりした。また樹皮は、関節痛を緩和するための薬の材料に使われたという。
中国への輸出
イリアヒは、18世紀の終わり頃から約50年にかけて盛んに伐採された。切り倒した材木は、中国に輸出された。当時中国では、主にインドから輸入された希少なビャクダンの材が家具や香木に使われていたが、高額だった。そんなときに、アメリカ人の毛皮商人、ジョン・ケンドリック(John Kendrick、1740–1794)は、1791年に、ハワイ人がイリアヒと呼ぶ木本がビャクダンの近縁種であり、その材はビャクダンと同じような香りを持つことを発見して、中国に売り始めた。
イリアヒの輸出は、カメハメハ一世(Kamehameha I、1736–1819)が収益の25%を得ることによって管理しているうちはまだコントロールされていたらしい。しかし、1819年の彼の没後は、輸出から得られる現金で買える船や贅沢な品々に蠱惑されたアリイ(aliʻi、貴族)たちによって苛烈な伐採が行われたという。
一部の地域では、平民たちが森に駆り出され、過酷な伐採と運搬を強制された。イリアヒを見つけやすくするためや、山へ入りやすくするために森は焼かれ、生態系が大きく破壊された。過剰な伐採は、イリアヒの数を減らしていった。1830年代初頭には絶滅寸前にまでなってしまい、1840年頃までにはイリアヒ貿易は終了した。
なお、イリアヒが枯渇してしまったときに、商人たちは、イリアヒに似たより香りがするナイオ(ハマジンチョウ科)を代わりに輸出したが、イリアヒの品質にはかなわないためか、中国側から却下され、失敗した。
ホノルル市内にあるフォスター植物園(Foster Botanical Garden)の入り口には、複数の四角い岩がオブジェとして置いてある【写真3】。アメリカ本土、アジア、イギリスなどから砕石された花崗岩だ。イリアヒ材を積み込んだ、ハワイから中国へ向かう重い船に比べると、帰りの船は茶や絹などが主な積荷で、とても軽かった。このため、これらの岩がバラスト(船のバランスをとるため船底に積む重し)として使われていたそうだ。
フォスター植物園の説明書きによると、イリアヒ貿易が終わった時に、これらの岩はヌウアヌ・アベニューの歩道に使われたそうだ。歩道が完成したら、残った岩は保存され、現在はフォスター植物園のオブジェとなったり、園内のベンチになったりしている。植物園の料金所の石畳にも、これらの花崗岩が使われているそうだ。
作成日: