ラン(オーキッド)まとめ

Orchids (Orchidaceae)

キャトリーア(カトレア) キャトリーア(カトレア)

ハワイはランの島

ハワイには、アロハの島、虹の島、パイナップルの島、太平洋の交差点、太平洋の楽園など、たくさんのニックネームがあるが、そのなかのひとつに「ランの島(Orchid Isles)」というものがある。1年を通して気温が安定した温暖な場所が多いハワイは、ランの栽培に適している。さらに、貿易風がもたらす適度な降水と、50~80%という湿度も、新鮮な空気を好むランの生育に向いているという。

ハワイを訪れる旅行者は、ホテルの枕元や、料理皿や、あるいはトロピカルカクテルのグラスに添えられた、美しいランを目にする機会がたびたびあるだろう。また、歓迎のしるしとして、ランのレイを首にかけてもらうこともあるかもしれない。ランは、ハワイの「おもてなし」を象徴する花だと言っていいだろう。

日本語名 ラン(蘭)
ハワイ語名 ʻokika、ʻokika honohono(Dendrobium anosmum)、ʻawapuhi-a-Kanaloa(Liparis hawaiensis
英語名 orchid(s)
分類 ラン科(Orchidaceae)
花言葉 優美な女性(カトレア)
高貴な美人(シンビディウム)
清純(コチョウラン)

ランは、英語ではオーキッド(orchid)と総称される。園芸植物として大変人気があり、コレクターも多い。ハワイにはオーキッドの大きな市場があり、その産業の始まりは1940年代と古い。現在も、デンドロビウム(セッコク属)をはじめとする多くのランが盛んに生産されている。園芸品種は15万種類をこえるといわれ、毎月150以上の新種が作られているという。

花の構造

ランの花の構造
【写真1】ランの花の構造(Miltonia sp.

ほとんどのランの花は左右対称で、3枚の萼片と3枚の花弁がある。多くの場合、3枚の花弁のうち中央の1枚は、変形して唇弁(しんべん)と呼ばれる。唇弁は、他の2枚の花弁や萼片とは異なる色であることが多く、花粉を媒介する虫を惹きつけたり誘導したりする働きがある。雄しべと雌しべは合着して、蕊柱(ずいちゅう)と呼ばれる器官になっている。【写真1】

ランの花と虫の関係

ランの花は、それぞれの種が生育する地域にいる特定の虫に合わせて進化していて、その虫のメスの形、色、匂いなどを賢く模倣している。花にいざなわれてやって来たオスの虫は、花に突っ込み、花粉を体に着けて飛び去る。そのオスが、別の花を訪れたときに受粉する。

園芸品種

アングラエクム属(アングレカム)
Angraecum

アフリカとインド洋の島々が原産の約200種を元に、様々なハイブリッドが作られている。

ブラッシア属(スパイダーオーキッド)
Brassia

Brassia sp.
【写真2】Brassia sp.

萼片と花弁が細長いものが多く、その容姿がクモに似ていることから、スパイダーオーキッド(spider orchid)と呼ばれる。【写真2】

マメヅタラン属(ブルボフィルム)
Bulbophyllum

多くは着生。ランとしては変わった姿の花が多い。花のつき方がヒナギクを彷彿させる種や、花が悪臭を放つ種もある。

キャトリーア属(カトレア)
Cattleya

Cattleya sp.
【写真3】Cattleya sp.

オーキッド産業における主要なハイブリッドのひとつ。花の色、大きさ、形は様々。フリルのようにひらひらとした、ゴージャスな姿のものが多い。花には芳香があるものとないものがある。結婚式などの特別な機会で使用されることが多い。花言葉は「優美な女性」。【写真3】

シュンラン属(キンビディウム、シンビディウム)
Cymbidium

花は1ヶ月かそれ以上長持ちするが、バルコニーなどの日当たりのよい場所に置く必要がある。花言葉は「高貴な美人」。

シクノチェス属
Cycnoches

落葉性、もしくは半落葉性の着生ラン。逆さになった下向きの花をつけるものが多い。

アツモリソウ亜科(レディスリッパー)
Cypripedioideae

Paphiopedilum sp.
【写真4】Paphiopedilum sp. | Photo by Forest & Kim Starr

アツモリソウ属(Cypripedium)、メキシペディウム属(Mexipedium)、パフィオペディルム属(Paphiopedilum)、フラグミペディウム属(Phragmipedium)、セレニペディウム属(Selenipedium)の5種からなる亜科。袋状の唇弁が婦人の室内用上履きに似ていることから、英語ではレディスリッパー(lady slipper)と呼ばれる。ハワイではパフィオペディルム属とフラグミペディウム属のみがみられる。【写真4】

セッコク属(デンドロビウム)
Dendrobium

Dendrobium sp.
【写真5】Dendrobium sp. | Photo by Forest & Kim Starr

1,700種以上からなる大きな属。原産地は東南アジア、オーストラリア、フィジーを東限とする太平洋など。栽培が簡単なため、ハワイではリゾートエリアでたくさん使用される。花は紫色もしくはピンク色で、芳香がある。ハワイでシングル(一重)のオーキッドレイに使用されるのは、ほとんどがデンドロビウムである。【写真5】

ミルトニア属
Miltonia

中央アメリカと南アメリカ原産の着生ラン。花の色や形は様々。茎に複数の花をつける。花は芳香がある。茎は長いもので2.5mになる。

コチョウラン属(ファラエノプシス)
Phalaenopsis

Phalaenopsis sp.
【写真6】Phalaenopsis sp. | Photo by Forest & Kim Starr

東南アジアとオーストラリアが原産で、約40種からなる。属名のPhalaenopsisは、「蛾のようなラン」という意味で、花の姿が蛾に似ていることに由来する。英語名のmoth orchidも、moth=蛾、orchid=ランで、属名と同じ由来。花は白色かピンク色が多い。ハワイでみられるピンク色のランの多くはコチョウランの仲間である。花は約3ヶ月もつ。優雅で美しい花に魅せられた多くのファンがいる。主に室内の観賞植物として育てられる。花言葉は「清純」。【写真6】

ソブラリア属
Sobralia

着生ではない種が多い。直立し、高さは30cmから大きなものでは9mになる。昼のあいだの1日だけ花をつける種が多いが、1年を通して何度もつける。花には芳香がある。ハワイでは造園に使用される。

ヒスイラン属(ヴァンダ)
Vanda

Vanda sp.
【写真7】Vanda sp.

熱帯が原産だが、ヒマラヤの寒冷地にも数種みられる。花の色は薄紫、黄色、紫色などさまざま。レイに使用される。【写真7】

野生のラン

環太平洋の地域にはたくさんのランの仲間がある。ハワイの雨林にも、他の熱帯地域と同じように多くの種類のランが自生していると思われがちだが、意外なことに、ハワイ原産のランはわずか3種しかない。これら3種のランは、すべてハワイ固有種。どれも地味で、数は少なく、山奥にしか生育していない。植物学者や生物地理学者たちのあいだでのみの興味の対象となっている。

ホコリのように小さくて軽いランの種子は、ジェット気流に乗って、全ての大陸から遠く離れたハワイにもたどり着く可能性はあるだろう。しかし、そもそも海を渡る風のなかでは、ランの種子は長く生きられないという。さらに、ランが生育するために必要な菌類*と、花粉を媒介できる虫類がハワイにいなかったため、たとえ風に運ばれたランの種子が生きたままハワイに到達したとしても、ほとんどは定着できなかった。3種の幸運な例外を除いて、ランがハワイで定着したのは、人間の手によって多くのランがハワイに持ち込まれた近代以降ということになる。

現在ハワイでは、3種の固有種のほか、4種の外来種が野生の状態で生育している【表1】。ランの仲間のうち約75%は、地中に根をおろさないで他の木の上や岩などに根を張る着生植物だといわれるが、ハワイの野生のランのほとんどは着生ではなく、地面に根を張って生育する。

*すべての植物の種子のなかで最も小さいと言われているランの種子は、生長するための栄養を備えておらず、ラン菌と呼ばれる菌類が根に共生することによって菌から栄養をもらわないと生長できない。

【表1】ハワイの野生のラン
固有種 Anoectochilus sandvicensis(ジュエルオーキッド)
Liparis hawaiensis(アヴァプヒアカナロア)
Platanthera holochila
外来種 Arundina graminifolia(ナリヤラン、バンブーオーキッド)
Epidendrum x obrienianum(スカーレットオーキッド)
Phaius tankarvilleae(チャイニーズグラウンドオーキッド)
Spathoglottis plicata(コウトウシラン、フィリピングラウンドオーキッド)

ハワイ原産のラン(固有種3種)

ジュエルオーキッド
Anoectochilus sandvicensis

キバナシュスラン属(アノエクトキルス)。高さ10~50cmの多年草。着生ではない(地生)。萼片は淡い緑色、花弁は緑色がかった黄色。唇弁は黄色。主要6島に分布する。標高275~1,710mの湿潤な森に生育する。英語名はjewel orchid(宝石のラン)。ハワイ語名はない。

アヴァプヒアカナロア
Liparis hawaiensis

クモキリソウ属(リパリス)。高さ5~15cmの多年草。地生もしくは着生。花は淡い緑色。花の時期は5月〜11月。主要6島に分布する。標高490~1,530mの湿潤な森に生育する。本種によく似ているランが東南アジアにいくつかあるという。ハワイ語名はアヴァプヒアカナロア(ʻawapuhi-a-Kanaloa)。アヴァプヒ(ʻawapuhi)は、ハワイに自生するショウガ(ジンジャー)の一種。カナロア(Kanaloa)は、海の神の名前。

Platanthera holochila

ツレサギソウ属(プラタンテラ)。高さ90cmになる落葉性の草本。花は緑色がかった黄色。カウアイ島、オアフ島、モロカイ島、マウイ島に分布する。標高600~1,830mの湿潤な森にわずかに生育する。ハワイ語名はない。絶滅危惧種。

外来種のラン(4種)

ナリヤラン(バンブーオーキッド)
Arundina graminifolia

ナリヤラン(バンブーオーキッド)
【写真8】ナリヤラン(バンブーオーキッド)

ナリヤラン属(アルンディナ)。高さ1~2.5m。着生ではない(地生)。花は横幅が約5cmで、花弁は白色もしくは淡いピンク色、唇弁は赤みを帯びた紫色。原産地は東南アジア、インド、マレーシア、太平洋のいくつかの島々など。ハワイには庭の装飾用に移入されたが、1945年にオアフ島で野生化したものが最初に見つかった。以後、外来種としてカウアイ島、オアフ島、マウイ島東部、ハワイ島に分布する。標高75~920mの荒地、湿潤な森、溶岩帯でみられる。ハワイ在来の生態系への悪影響はないという。【写真8】

スカーレットオーキッド(バタフライオーキッド)
Epidendrum x obrienianum

スカーレットオーキッド
【写真9】スカーレットオーキッド | Photo by Forest & Kim Starr

エピデンドルム属。地生もしくは岩生。小さな花は通常はオレンジ色だが、赤色やふじ色のものもある。1940年にハワイに移入された。栽培に手間がかからず多くの花をつけるため、民家の裏庭に多く植えられている。野生化したものは、カウアイ島、オアフ島、ラーナイ島、マウイ島、ハワイ島の標高300~1,200mでみられる。乾燥した地域に多い。茎に栄養分体(plantlets)と呼ばれる小さな個体を作るため、ベイビーオーキッド(baby orchid)とも呼ばれる。エピデンドルム属は、ラン科のなかでは大きな属で、少なくとも1,000種はあるとされる。南北アメリカや西アフリカに広く分布する。【写真9】

チャイニーズグラウンドオーキッド
Phaius tankarvilleae

チャイニーズグラウンドオーキッド
【写真10】チャイニーズグラウンドオーキッド

ガンゼキラン属(ファイウス)。高さ1.3mになる多年草。ほとんどは地生だが、まれに着生。花は直径7.5cmで、葉のない茎の先につく。花は外側が白色、内側は茶色がかった紫色。中国南部、マレーシア、オーストラリア、ニューカレドニア原産。観賞用にハワイに持ち込まれたが、野生化したものが1931年にオアフ島で発見された。現在はカウアイ島、オアフ島、ラーナイ島、ハワイ島でみられる。標高420~1,230mの陰が多い草地や湿り気のある森に生育する。ハワイではChinese ground orchid、nun’s orchid、nun’s-hoodなどと呼ばれる。【写真10】

コウトウシラン(フィリピングラウンドオーキッド)
Spathoglottis plicata

コウトウシラン(フィリピングラウンドオーキッド)
【写真11】コウトウシラン(フィリピングラウンドオーキッド)

コウトウシラン属(スパトグロッティス)。高さ30cm~1.5mの多年草。着生ではない(地生)。花は直径約2.5cmの濃い紫色、淡いピンク色、まれに白色。東南アジア、マレーシア、太平洋に浮かぶいくつかの島々が原産。ハワイでは、1920年代にハロルド・L・ライアン*(Harold L. Lyon)によってオアフ島で育てられ始めた。そのうち野生化したが、生態系への悪影響はないという。主要6島の標高640mまでのウィンドワード(windward、貿易風の風上側)の道路沿いなどに多く咲いていたが、除草剤が撒かれることが多くなった近年はあまり見られない。英語名Philippine ground orchidが示す通り、フィリピンなどの東南アジアが原産。【写真11】

*オアフ島マーノア(Mānoa)にあるライアン樹木園(Lyon Arboretum)の創始者。

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